CPP-GMR素子FeCo/Cu/FeCoにおける、電極層へのCu層挿入によるMR比の改善

強磁性層FeCo、非磁性層CuからなるCPP-GMR素子において、FeCo層内に1-2層Cu層を挿入すると素子のMR比が改善されることが実験下で示されています[1]。ここでは、その実験結果をAtomistix ToolKitによる第一原理電気伝導計算で解析した事例を紹介いたします。

計算系

入力構造

本計算事例における入力構造を図1に示します。以下の4種類のFeCo/Cu/FeCo入力構造に対して計算を実行しました。

1. normal構造 電極層にCu層が挿入されていないFeCo/Cu/FeCo
2. Fe converted構造 左電極にCu1層がFe1層と置換する形で挿入されたFeCo/Cu/FeCo
3. Co converted構造 左電極にCu1層がCo1層と置換する形で挿入されたFeCo/Cu/FeCo
4. Fe+Co converted構造 左電極にCu2層がCo1+Fe1層と置換する形で挿入されたFeCo/Cu/FeCo

左右電極FeCoの格子定数に関しては実験値[2]を採用し、Cuに関しては格子定数をFeCoのそれと一致させるために実験値(Virtual NanoLabのデータベースを使用)の0.97倍の値を採用しました。また、面方向はFeCo・Cu共に(001)です。


図1 本計算で採用した入力構造。(a) normal構造、(b) Fe converted構造、
(c) Co converted構造、(d) Fe+Co converted構造。

計算条件

計算に用いた主要なパラメータを表1に記します。

表1 計算条件
ソフトウェア ATK 2008.07
Mesh-cut off 150Ry
交換相関汎関数 SGGA-PBE
基底関数 SZP
k点サンプリング(SCF) (8, 8, 80)
k点サンプリング(透過係数) (301, 301)

物理量の定義

解析した各物理量の定義を以下に示します。

  • コンダクタンスの0バイアス極限(up or down)

    αは、左右電極間の相対磁化が平行(p)もしくは反平行(a)であることを表します。
  • コンダクタンスの0バイアス極限(total)
  • MR比

計算結果

電極間の相対磁化が平行の場合のコンダクタンス

計算結果を図2、表2に示します。電極層へCu層が挿入された3構造全てにコンダクタンスの減少が見られました。


図2 電極間の相対磁化が平行のときのコンダクタンス。

表2 電極間の相対磁化が平行のときのコンダクタンス
  normal Fe converted Co converted Fe+Co converted
[μS] 20.3 17.8 16.3 15.1
[μS] 5.1 3.5 3.1 2.4
[μS] 25.4 21.3 19.4 17.5

電極間の磁化が反平行の場合のコンダクタンス

計算結果を図3、表3に示します。平行の場合と同様、電極層へCu層が挿入された3構造全てにコンダクタンスの減少が見られました。ただし、反平行の場合のほうが平行の場合よりコンダクタンスの減少がより顕著であることが見受けられます。


図3 電極間の相対磁化が反平行のときのコンダクタンス。

表3 電極間の相対磁化が反平行のときのコンダクタンス
  normal Fe converted Co converted Fe+Co converted
[μS] 5.2 3.9 2.2 2.4
[μS] 4.6 2.9 2.7 2.0
[μS] 9.8 6.8 4.9 4.4

MR比

計算結果を図4に示します。電極層へCu層が挿入された3構造全てにMR比の増大が見られます。これは、実験と定性的に一致します。


図4 MR比

考察

ここでは、電極層へCu層が挿入されることによってMR比が増大する理由を2次元逆格子空間の各点におけるフェルミエネルギーの透過係数を調べることにより考察します。電極層へCu層が挿入された3構造のうち、最もMR比が向上したのはFe+Co converted構造でした。ですので、normal構造とFe+Co converted構造のk点依存透過係数を比較することにします。
normal構造、Fe+Co converted構造のk点依存透過係数、及びその2つの差をとったものを図5に示します。図5の一番右側にあるのが差をとったものですが、赤い部分がCu層挿入によりなくなった透過チャネル、青い部分がCu層挿入により新たに形成された透過チャネルを表します。なお白い部分は、Cu層挿入の前後で変化がない部分です。
電極間の相対磁化が平行の場合、Cu層挿入によって透過チャネルが減少しますが、新たに形成される透過チャネルもある程度存在することが分かります。一方、電極間の相対磁化が反平行の場合には、新たに形成される透過チャネルはほとんど存在しません。つまり、電極間の相対磁化が平行の方が新たに形成される透過チャネルが多いためコンダクタンスの減少が抑えられ、その結果、MR比の増大につながったと解釈できます。


図5 normal構造、Fe+Co converted構造のk点依存透過係数、及びその2つの差。
Parallelは電極間の相対磁化が平行の場合、
Anti-Parallelは電極間の相対磁化が反平行の場合を表す。

電極間の相対磁化が反平行の場合、新たに形成される透過チャネルがあまり寄与しなかった理由は電極FeCoのフェルミエネルギーにおける状態数を調べることにより理解できます。
FeCoのフェルミ面を2次元逆格子空間に射影したものを図6に示します。Minority Spinに着目すると、新たに形成される透過チャネルが主に寄与する(kx,ky)に状態が存在しないことが分かります。電極間の相対磁化が平行の場合、伝導機構は「左電極のup spinバンド→右電極のup spinバンド」、及び「左電極のdown spinバンド→右電極のdown spinバンド」となるので、「左電極のup spinバンド→右電極のup spinバンド」の伝導において新たに形成される透過チャネルが伝導に貢献できます。一方、電極間の相対磁化が反平行の場合、伝導機構は「左電極のup spinバンド→右電極のdown spinバンド」、及び「左電極のdown spinバンド→右電極のup spinバンド」となるので、両方の伝導において新たに形成される透過チャネルが伝導にほとんど寄与しません。


図6 2次元逆格子空間へ射影されたFeCoのフェルミ面。

まとめ

  • Atomistix ToolKitによる第一原理電気伝導計算によって、CPP-GMR素子FeCo/Cu/FeCoのFeCo電極部分にCu層を挿入することによりMR比が増大するという実験結果を定性的に再現しました。
  • MR比が増大する原因は、Cu層挿入によって新たに形成される透過チャネルによる伝導への寄与が平行/反平行の場合で異なるためだと考察されました。その理由は、2次元逆格子空間へ射影されたFeCoのフェルミ面の形状から理解することができます。

References
[1]H. Yuasa, M. Yoshikawa, Y. Kamiguchi, K. Koi, H. Iwasaki, M. Takagishi and M. Sahashi, J. Appl. Phys. 92, 5 (2002)
[2] W.C. Ellis and E.S. Greinerussis, Am. Soc. Metals 21, 415 (1941)


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