Atomistix ToolKit 2009.11透過係数計算に関する新旧アルゴリズムのパフォーマンス比較

バージョン2009.06からKrylov部分空間法を用いた高速な透過係数の計算機能[1]が新たに実装されました。旧アルゴリズムであるRubio法[2]とのパフォーマンスの比較を幾つかの2プローブ系で行いましたので、その結果を報告いたします。

テスト環境

計算を行ったマシンスペックとATKバージョンを表1に示します。

表1 マシンスペック及びATKバージョン
CPU Intel Xeon W3520 2.67GHz
Memory 4GB
OS OpenSUSE 11.1 (x86_64)
ATKのバージョン ATK 2009.11

計算対象

図1にあるそれぞれの2プローブ系に対して拡張Hückel法を用いた電子構造計算を行い、その後、新or旧アルゴリズムを用いた透過係数の計算を実行しました。ATK 2009.11.1では、透過係数の計算に対して新or旧アルゴリズムの選択が可能です。


図1:透過係数のベンチマーク計算に使用した2プローブ系。

結果

新旧アルゴリズムの計算時間の比較を表2に記します。なお、透過係数はΓ点近似を用いて-2〜2eVのエネルギー区間を401点分割して計算されたものです。Krylov部分空間法による透過係数計算は、Rubio法に比べ2.5〜3.5倍速いことが分かります。

表2 新旧アルゴリズムの計算時間の比較
System Krylov [s] Rubio [s] Speed-up
99cnt 532 1444 2.71
ausiau 2760 9683 3.51
gjd 160 423 2.64
mole_j 1236 4300 3.48
aumw 569 1895 3.33

図2に金単原子ワイヤーの透過係数を示します。図2からKrylov部分空間法による透過係数計算はRubio法による計算と等価な結果をもたらすことが理解できます。


図2:金単原子ワイヤーの透過係数。

考察

ここでは、新アルゴリズムがどのような2プローブ系に対して適しているかを考察します。
電極の状態には、電極内で減衰せずに伝播するpropagating modeと指数関数的に減衰するevanescent modeが存在します。透過係数の値に寄与するのはpropagating modeのみですが、電極/中央領域間の波動関数のmatchingを精度良く計算するためには、evanescent modeの考慮も必要となってきます。

図3([3]から引用)に-1.5eVにおけるAu(111)電極のbulk modeの計算結果を示します。ユニットセル内の原子数は27で1原子あたり9つの基底(sp3d5)を用いて計算されたものなので、右方向に伝播する全モード数は27×9=243存在します。

|λ|=1がpropagating mode、|λ|<1がevanescent modeを表しますが、propagating modeは243モードのうち僅か3モードしか存在しません。また、ほとんどのevanescent modeは、0付近に集中していることが見て取れます。Krylov部分空間法による透過係数計算では、全モード数の大半を占める速やかに減衰するevanescent modeを計算過程から効率よく除外することによって、計算速度を向上させます。

一般的に、電極サイズを大きくするほどevanescent modeの数は増加します。つまり、電極サイズが大きな系ほど計算速度の向上が得られると期待されます。今回の計算における、電極サイズ(=電極の計算に使用された基底の数)とSpeed-upの関係を表3に示します。期待される通り、電極サイズが大きいほど計算速度が向上している結果が得られていることが分かります。


図3:(a)E=-1.5eVにおけるAu(111)電極の各ブロッホ因子(|λ|≤1)。
(b)10層分のユニットセルを伝播する各bulk mode。

表3 電極サイズとspeed-upの関係
System 電極サイズ Speed-up
gjd 174 2.64
99cnt 288 2.71
aumw 324 3.33
mole_j 432 3.48
ausiau 576 3.51

まとめ

  • 新アルゴリズムによって、精度を落とすことなく透過係数の計算速度を向上させることができます。
  • 新アルゴリズムは、系の電極サイズが大きいほど計算速度が向上するという特長があります。

References
[1] H.H.B. Sørensen, P.C. Hansen, D.E. Petersen, S. Skelboe, and K. Stokbro, Phy. Rev. B 77, 155301 (2008).
[2] M. P. Lopez Sancho, J. M. Lopez Sancho, and J. Rubio, J. Phys. F 15, 851 (1985).
[3] H.H.B. Sørensen, P.C. Hansen, D.E. Petersen, S. Skelboe, and K. Stokbro, Phy. Rev. B 79, 205322 (2009).


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